“このサンドイッチで、昭和天皇をますます敬愛することになったエピソードがあります。大膳にはいりたての若い頃の話です。先輩がサンドイッチを作り、私はそのサンドイッチを持って初めて陛下のお供をして那須の山をほかの皆さんと歩きました。
主膳さんが侍従に「そろそろお時間でございます」と伝え、侍従が陛下に「そろそろお時間でございます。いかがでございましょう」と申し上げると、陛下は「じゃあお昼にしようか」というようなことをおっしゃいます。そこで私たちはすぐにテーブルを出してセッティングします。旅先のことですから、ごくごく簡単なテーブルです。
そのときに、生まれて初めて陛下のもとにサンドイッチをお持ちしました。本来は主膳さんがするべきことですが、主膳さんはテーブル・セッティングをしていて、旅先ということもあり、「渡辺さん、あなた自分で持っていきなさい」と言われ、そのときは私が主膳さんのかわりに、女官さんのもとへ運びました。
おそばで女官さんとのやりとりをうかがっていると、陛下は、「イチゴジャムを」とおっしゃいました。
「他にはいかがでしょうか」
「イチゴジャム」
とまたおっしゃる。
生まれて初めて陛下のおそばにいたので、私はブルブル震えるぐらい大変に緊張していましたが、そういう雰囲気の中でも、陛下はジャムだけをとおっしゃるので、陛下はイチゴジャムがよほどお気にいりなのだと思った記憶があります。
そうして、イチゴジャムのサンドイッチを三切れほど、陛下のお皿にお箸でお取りしたら、「あとは、皆に」とおっしゃるのです。残ったものを皆で分けるようにというのではありません。陛下はまだお食事の前です。私は聞き間違いかと思い、きょとんとしていたら、女官さんから「皆さんに回してあげてください」と指示がありました。
サンドイッチの箱には結構な数が入っているとはいえ、随員が三十人ぐらいいるわけですから、一切れずつ分けたら、陛下が召し上がる分がなくなってしまうわけです。
職員には弁当の用意があることは、陛下はよくご存じのはずです。しかし、女官さんからの申しつけですから、私はそのサンドイッチを皆さんにお持ちし、一切れずつお取りいただきました。そして、「皆さんにお取りいただきました」と女官さんに伝えました。
女官さんが陛下に「みんなの手元にいったようです」といった意味あいのことをお伝えになったのではないでしょうか。「あ、そう」というお声が聞こえました。
「じゃあ、食べようね」とおっしゃって、陛下がご自分の好きなイチゴジャムのサンドイッチをお口に入れられた瞬間に「美味しいね」というお声が耳に入りました。私が作ったわけではありませんが、自分に言われたことのようにうれしくなりました。
たぶんそのときは、私の記憶に間違いがなければ、皇后陛下のほうを向いておっしゃっておられたように思います。
私はそのとき、陛下が残りものをみんなで分けるという発想ではなく、ご自分が召し上がるときに、ご自分のものを一口ずつでも分け与えて、同じものを食べようという、まるで家族のようなお気持ちの温かさに心を打たれたのです。
これがきっかけで、昭和天皇のことをとても身近に感じると同時に、憧れが尊敬に変わり、陛下にお仕えする臣下としての誇りをさらに強く持つようになりました。”
- 活字中毒R。 (via yaruo) (via gkojax, shadowzero)
2009-04-11 (via gkojay) (via kml) (via petapeta)
主膳さんが侍従に「そろそろお時間でございます」と伝え、侍従が陛下に「そろそろお時間でございます。いかがでございましょう」と申し上げると、陛下は「じゃあお昼にしようか」というようなことをおっしゃいます。そこで私たちはすぐにテーブルを出してセッティングします。旅先のことですから、ごくごく簡単なテーブルです。
そのときに、生まれて初めて陛下のもとにサンドイッチをお持ちしました。本来は主膳さんがするべきことですが、主膳さんはテーブル・セッティングをしていて、旅先ということもあり、「渡辺さん、あなた自分で持っていきなさい」と言われ、そのときは私が主膳さんのかわりに、女官さんのもとへ運びました。
おそばで女官さんとのやりとりをうかがっていると、陛下は、「イチゴジャムを」とおっしゃいました。
「他にはいかがでしょうか」
「イチゴジャム」
とまたおっしゃる。
生まれて初めて陛下のおそばにいたので、私はブルブル震えるぐらい大変に緊張していましたが、そういう雰囲気の中でも、陛下はジャムだけをとおっしゃるので、陛下はイチゴジャムがよほどお気にいりなのだと思った記憶があります。
そうして、イチゴジャムのサンドイッチを三切れほど、陛下のお皿にお箸でお取りしたら、「あとは、皆に」とおっしゃるのです。残ったものを皆で分けるようにというのではありません。陛下はまだお食事の前です。私は聞き間違いかと思い、きょとんとしていたら、女官さんから「皆さんに回してあげてください」と指示がありました。
サンドイッチの箱には結構な数が入っているとはいえ、随員が三十人ぐらいいるわけですから、一切れずつ分けたら、陛下が召し上がる分がなくなってしまうわけです。
職員には弁当の用意があることは、陛下はよくご存じのはずです。しかし、女官さんからの申しつけですから、私はそのサンドイッチを皆さんにお持ちし、一切れずつお取りいただきました。そして、「皆さんにお取りいただきました」と女官さんに伝えました。
女官さんが陛下に「みんなの手元にいったようです」といった意味あいのことをお伝えになったのではないでしょうか。「あ、そう」というお声が聞こえました。
「じゃあ、食べようね」とおっしゃって、陛下がご自分の好きなイチゴジャムのサンドイッチをお口に入れられた瞬間に「美味しいね」というお声が耳に入りました。私が作ったわけではありませんが、自分に言われたことのようにうれしくなりました。
たぶんそのときは、私の記憶に間違いがなければ、皇后陛下のほうを向いておっしゃっておられたように思います。
私はそのとき、陛下が残りものをみんなで分けるという発想ではなく、ご自分が召し上がるときに、ご自分のものを一口ずつでも分け与えて、同じものを食べようという、まるで家族のようなお気持ちの温かさに心を打たれたのです。
これがきっかけで、昭和天皇のことをとても身近に感じると同時に、憧れが尊敬に変わり、陛下にお仕えする臣下としての誇りをさらに強く持つようになりました。”
- 活字中毒R。 (via yaruo) (via gkojax, shadowzero)
2009-04-11 (via gkojay) (via kml) (via petapeta)