『非常階段 A STORY OF THE KING OF NOISE』JOJO広重 , 美川俊治 , JUNKO , コサカイフミオ , 野間易通 (共著) K&Bパブリッシャーズより9/3発売 ¥3000
日本最強のライブバンド『非常階段』の雑音伝説はロックの本質を突く
「キング・オブ・ノイズ」という称号がまさに相応しい『非常階段』。その音楽の破壊力は筆者が在宅時、彼らのCDを聴くと同室にいた猫が文字通り耳を伏せて別室へ避難してしまうことからも明らかである。本書は非常階段、その活動の30年の歩みを追ったものである。
筆者は多くの皆さんとは異なり、「そのバンドがいかにイカレてるか」から音楽に興味を持つ。つまり、ツェッペリンが日本刀で新幹線の窓切りつけた、等々の奇行、伝説から入る形をいつもとってしまうのだ。その筆者にとって非常階段はまさに夢の、理想のバンドである。有名になった放尿、嘔吐ライブはもとより、「演奏しながらたこ焼きをまき散らす」「会場中の窓ガラスと蛍光灯すべて破壊」「損害賠償1万円請求されたら『1円玉1万枚を汚物入りのバケツに入れた形でしか支払わない』とかたくなに主張」「オープニングで客席内に投げつけたハイハットのシンバルがPAコードを切断」読んでるだけで楽しい。「新宿ロフトのライブでまき散らしたミミズがロフトに生息してしまい、『今後非常階段を出演させるなら辞めます』とスタッフ一同がオーナー、平野悠氏に猛抗議」なんか、ロフトに行ってミミズを探したくなる。「大学の講堂裏に、主催者を落とすための落とし穴を作成」などに至っては、もはや何がしたいのか判らなく最高である。
非常階段のライブを見たことがある方にはお分かりだろうが、彼らのライブは驚くほど「音楽的」である。その片鱗は本書内でのJOJO広重の証言にも多々かいま見られる。「ギターがひずんだりジミヘンがギター燃やしたり、そういうロックのハイテンションな瞬間だけやりたい」という発言からも明らかである。広重氏本人の「日々の生活でどういう物が自分の中に蓄積されているか、そういう『人間力』が音に現れる」という発言(それをお風呂のお湯と水の調整に例えるあたりがまたよい)は、全ての表現者に当てはまる至言であろう。メロディーや旋律を持たぬノイズこそ、もっとも音楽性と人間性が問われるジャンルかもしれない。それを30年…。おみそれしました。非常階段以外でもトレーディングカードや占いなど、多才すぎる広重氏の活動にもそれは伺えるだろう。
30年を越えてまだまだ非常階段は健在である。本書の冒頭に書かれている昨年の新宿ロフトでのライブでは原爆オナニーズ、遠藤ミチロウとともに「原爆スター階段」としてマグロの目玉を投げたり大暴れ(久々に怪我人の出てるライブみました)、先月は閉店直前のHMV渋谷店でインストア、大モッシュ(死ぬかと思いました)で開始10分でPA壊れる…と意気盛んである。「アホ=ロック」を証明し続ける彼らは、筆者にとって未だ「なりたい大人」の姿である。
本書巻末には貴重すぎる非常階段ディスコグラフィー、メンバーによる「影響を受けた音楽」ではキング・クリムゾンからクリーミーマミまでの幅広すぎる音楽傾向が語られる。これだけでも大満足なのに、付録DVDとしてミミズをまいたロフトのライブや、伝説の放尿ライブの映像まで付いてくる!これで3000円は安すぎる!
※「ROOFTOP」9月号より多田遠志の書評
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